皆さま、大変長らくお待たせいたしました。「ほぼ月刊 牧雄チャンネル」の更新です。
三輪田学園では、本日、1学期の終業式を迎えることができました。
この1学期は、学校生活を、ほぼコロナ前に戻すことができました。5月には、当日朝方まで雨が降っていましたが、4年ぶりに駒沢オリンピック公園で運動会を実施することができました。また、6月の修学旅行は、出発当日、台風接近による大雨で新幹線が運休したため、高校2年生は当日深夜に、中学3年生は翌日未明に宿泊施設に到着するという不運に見舞われたものの、2日目以降はほぼ予定していたことを行うことができました。わたくしたちの前にはさまざまな困難が立ちはだかりましたが、それらを何とかくぐり抜けることができた1学期でした。
三輪田学園は明日から夏休み。とは言っても、クラブや補習、希望制の講習がありますし、MIWADA Learning Loungeは毎日のように開設しています。海外研修もありますし、オープンキャンパスやボランティアなどの予定もあることでしょう。夏休みとは言えないという生徒も少なくないのかも知れませんね。そして高校3年生の皆さんは、大学受験に向けての猛勉強の夏です。三輪田学園の全教職員、高2以下の全生徒が皆さんを応援しています。「フレー、フレー、高3生!」。
こちらをご覧になっている方には中学受験を控えているという方もいらっしゃると思います。そのような皆さんにも、「フレー、フレー、受験生!」。
ここからは、1学期終業式でお話したことを掲載いたしますが、「ほぼ月刊 牧雄チャンネル」では、終業式でのメッセージを、2回に分けて掲載いたします。
【2023年度 一学期終業式のメッセージ(第1部)】
今日は、最近の学校説明会で、お話している女子校の意義について考えてみたいと思います。
〔男女別学校の減少と共学校の増加〕
文部科学省が毎年行っている学校基本調査によると、2022年、全国には4,824校の高等学校がありましたが、そのうち男子校は100校、女子校は275校でした。割合でいうと、男子校が全体の2.07%、女子校が5.70%になります。1970年代をピークに、男子校はピーク時の4分の1以下に、女子校は3分の1近くまで減少しました。
このような男女別学校減少の背景には大きく2つのことが関係しています。
1つは、男女共同参画社会の推進です。男女共同参画社会とは、男性・女性の性別に関係なく、個性と能力を発揮できる社会ということです。SDGsの目標5はジェンダー平等実現ですが、両者は共通しています。日本は1985年に女性差別撤廃条約を締結し、1999年に男女共同参画社会基本法を制定しました。このような社会の変化を受けて、公立校や大学付属校を中心に男女別学校が共学校化してゆきました。
もう1つの背景が少子化です。こちらは私立に多く見られますが、少子化が進行する中で、男子生徒のみ、女子生徒のみを対象とするよりも、両者を対象とすれば、より多くの受験生を獲得できます。生徒募集に困難を抱える学校の中には、経営的な判断で共学校化した学校が少なくありません。
〔ジェンダーギャップ〕
2023年、日本は世界146か国中125位。
6月21日に公表された最新のものですが、日本は過去最低を更新しました。この順位は、男女間の格差を数値化したジェンダーギャップ指数です。日本は長年にわたり、とくに政治分野と経済分野での男女間の格差が大きいことが指摘されています。この国は、男性に有利で女性には不利な国だということを表します。
男性であろうと女性であろうと、性による格差はなくさなければなりません。でも、数年前には、いくつもの大学の医学部の入学試験で、男子受験生を優遇していたことが問題になりました。現実には、女性というだけで、例えば、会社で出世の道が狭められてしまう現実があります。同じ年に入社した男性に先を越され、後輩男性にも追い抜かれるのです。そういった「ガラスの天井」が存在しています。
内閣府の男女共同参画局の調べによると、民間企業の管理職に占める女性の割合は、係長が21.3%、課長11.5%、部長8.5%でした(「男女共同参画白書 令和3年」)。女性の割合が低いことに加え、上役になればなるほど女性の割合が減るという現実があります。これでは皆さんの卒業後の活躍の場が狭められてしまいます。でも、これが日本の社会の現実です。ですから、女子には、皆さんには、男子以上に人間力と学力が必要になるのです。
1946年の衆議院議員選挙では、戦後初めて女性が選挙に参加しました。その時の女性議員の割合が8.4%でした。それから77年後の現在、衆議院議員に占める女性議員の割合は9.9%です。変わっていません。世の中の半数以上が女性なのにです。
この四半世紀、男女共同参画社会を謳い、共学化を進めてきたのが日本です。一方で、結果としての男女間格差を再生産してきたのがこの社会でした。
格差を是正したり、格差が生じる背景を改めたりすることなく、男女共同参画社会の実現は重要だ、学校も社会の一部、だから、学校も男女共学にするべきだ、ということは本当に正しいのでしょうか。
〔ジェンダーバイアス(性による役割分担・思い込み・偏見)・アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)〕
三輪田学園に限らず、かつて多くの女子校では「女子はこうあるべき」というある枠・型にはめ込もうとする教育を行ってきました。しかし、これからは学校が、「男子はこうあるべき」・「女子はこうあるべき」といった性による役割分担(思い込み・偏見)、これをジェンダーバイアスといいますが、それを乗り越える教育をする必要があります。そしてそのためには共学よりも男女別学の方が明らかに望ましいということが言えます。
それは、私たちの無意識の偏見や思い込み、アンコンシャスバイアスが男女間格差に大きな影響を与えているということがあるからです。意識的にしていることはなくせます。無意識に行っていることをなくすのは難しいです。
アンコンシャスバイアスの例を申しましょう。わたくしは教員時代に、新聞部の顧問を長くしていました。毎年、三輪田学園を会場に新聞フォーラムを開いていました。三輪田の生徒は当たり前のように、机や椅子を運んで会場設営をします。しかし、共学校は違います。教員にアンコンシャスバイアスが染みついています。ある教員が次のように発します。「はい、男子生徒は机と椅子を運んで、女子生徒は受付に入って・・・」。
無意識のうちに、男子はこれをする、女子はこれをするという性別による役割分担、ジェンダーバイアスがすり込まれてしまうのです。日本社会の偏りといってもいいのかもしれません。それが無意識のうちに学校にも持ち込まれてしまいます。
令和3年に内閣府が出した『無意識の思い込み アンコンシャスバイアス事例集』の冒頭部分「刊行に当たって」には次のように書いています。「回答者全体の76.3%に、性別による無意識の思い込みが見られる結果となりました。特に、50代、そして60代の年齢層に強く見られた」。
その中の「シーン3:教育」の「女性に理系の進路は向いていない」に対して、男性の10.8%、女性の6.3%が「そう思う」と回答しています。より深刻なのが実は教員です。
同じような質問を教員に行いました。平成30年に全国の小学校1,500校、中学校1,500校に勤務する教員に行った調査で、「理数系の教科は、男子児童生徒のほうが能力が高い」という質問に、「そう思う」・「ややそう思う」と答えた教員は22.8%いました。教員の23%、約4分の1がそのように思っているのであれば、理数系の能力が高い女子生徒がいたとしても、女子は苦手なんだ、そうであるなら私も・・・。そのように思ってしまう生徒も当然いるはずです。自分の可能性を早いうちに閉ざしてしまう可能性があります。これでは女子の理系選択者は伸びません。
そういったことも関係しているのでしょうか。2019年の国立教育政策研究所の報告によると、全国の高校3年生全体の文系・理系の割合はほぼ7:3でした。男子だけを見ると文系対理系は6:4、女子は約8:2でした。理系女子は圧倒的に少ないといえます。
これには、先ほどの「女子は理系が苦手」というジェンダーバイアスが影響していると言われています。そうであるなら、男子がいない環境であれば、「女子は理系が苦手」という思い込みをしなくて済みます。アンコンシャスバイアスは関与しにくくなります。その結果といえるのかもしれません。三輪田学園の文理選択の割合は、6:4から55:45前後です。つまり、全国の女子の平均の2倍が理系を選択しています。
〔「自分らしさと人間力」〕
皆さんに言います。「女の子らしさ」より「自分らしさ」、「女子力」よりも「人間力」です。三輪田学園は、「女の子らしさ」を否定しません。言葉遣いや立ち居振る舞いにはこれからも厳しくします。が、それよりも「自分らしさ」を、そして「女子力」よりも「人間力」を大切にします。そのことと理系の割合が高いという結果とは無関係ではないと思います。
繰り返します。「男は強く」「女は優しく」「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」、「運動部のマネジャーは女子だよね」「女子は理数系が苦手」「やはり総理大臣は男性」といったジェンダーバイアス(無意識の中にある、ということを強調するならばアンコンシャスバイアス)の中では、自分自身を無意識のうちにある枠にはめ込んでしまう、自分の可能性を押しとどめてしまう可能性があります。
中学・高校という時代は人間としての土台を形成する大切な時期です。その時期に無意識のうちに自分の中に入り込んでしまうバイアスがこの社会には潜んでいます。もしそれを避けることができるのであれば、その方がいいに決まっています。現状では、ジェンダーバイアスやアンコンシャスバイアスを感じることの少ない環境が女子校、三輪田学園にはあります。もちろん、すべての女子校がそうだとはいいませんが、男女共同参画社会の実現にはむしろバイアスの少ない女子校の方がいいということができます。
ただ、学校は男女共同参画社会の推進のためにあるわけではなく、しっかりと人間力と学力をつけるためにあるわけです。本日はお話することができませんが、学力形成については、明らかに男女別学の方が共学よりも効果が高いという結果が海外からいくつも報告されています。海外では現在、日本とは逆の現象、つまり、男女別学にする国が増えているということがあるのですが、そのお話はまた別の機会にいたします。
わたくしは校長になって以来、これからは女子校の時代が来る、女子校は復活する、そのことを「伝統女子校の逆襲」という少々刺激的なテーマでお話をしています。それは、三輪田学園には次の言葉があるからです。
「天は、男子の上に、女子を作らず。男子の下に、女子をつくらず。」
この言葉は、1894年(明治27年)に出版された『女子の本分』をいう著書の中に記載されている、三輪田眞佐子先生の言葉です。校訓の「誠のほかに道なし」、教育理念の「徳才兼備の女性の育成」、そして、「天は、男子の上に、女子を作らず。男子の下に、女子をつくらず。」これらの言葉は三輪田学園の生徒としてしっかりと記憶に留めてほしいと思います。
(終業式のお話の後半は「ほぼ月刊牧雄チャンネル第9号」に続きます。)